会員自選作品集
令和3年度(2021年)会員自選作品5句
青栁かほる (いすみ市)
夏痩せといへども母の機嫌よし
たゆみなく歩む勤労感謝の日
あともどりするのも愉しかへり花
あとひとつ鐘をならして山眠る
遣らはれし鬼のひそむ山笑ふ
東 國人 (南房総市)
ダム底に礎石あらはる初明かり
梅一輪納骨堂に母を置く
グー出して負けるじゃんけん雲の峰
秋の朝白くならない顔洗う
大寒の夜へ生徒の帰りゆく
安藤英夫 (京都市)
知床の健気に川を鮭の群れ
吉野山花の大波迫りくる
風薫る比叡の峰峰微笑みて
球春や相も変わらず虎ファン
球春や少年の夢空を飛ぶ
石渡えみ (横浜市)
助手席の子どもの気づく初つばめ
泥だんご置かれてをりぬ夕薄暑
手術痕みせあつてゐる若葉冷
下闇の寒天橋や天城越え
真に受けぬ漢のセリフ衣被
伊藤 博 (埼玉県)
春ならひ穂先鋭き熊野筆
暖かや楮の香るかな半紙
墨すれば竜脳香る秋の夜
筆硯の穂先鋭し星月夜
北風や碧に光る硯石
大塚浩二 (横浜市)
山笑ふ供物溢るる道祖神
峰雲や折畳まれしゴミネット
爽籟や流鏑馬矢音響ける
目覚めたる獅子の咆哮年の暮
雲蝶の龍翔びだすや冬の雷
大沼遊山 (尼崎市)
岩清水苔清水なる五十鈴川
元伊勢を結ぶ街道雲の峰
横丁の残る暑さの伊勢氷
神還る元伊勢浜の波の音
岩肌へ消える磯笛春浅し
尾澤慧璃 (横浜市)
去年今年走る形に寝る子供
鶯の初音看護婦出勤す
滑走路に浮く前輪や大西日
十六夜の床に散らばるパズルかな
徳利の首に荒縄寒の入
景山田歌思 (さいたま市)
オリオンのせいにしている女かな
好きな娘を的にしてゐる雪合戦
駆け抜けるサイレンの音凩来
降る雪のせいにしているトリスバー
知らぬ間に頬を寄せ合ふ花火かな
北島 篤 (横浜市)
客船のただ揺れている朧月
朧夜や岸離れゆく貨客船
啓蟄や吾子懐妊の報に触れ
風光る司直官舎の榊かな
恋してふ今宵夜這ふに亀鳴くや
久保遡反 (栃木県)
食券のうどんの文字に冬の蠅
冬の灯のカーテンそつと引かれけり
自転車のタイヤの溝のいぬふぐり
浅草や耳朶に触れたる柳の芽
大小の靴の散らばるテントかな
小島ノブヨシ (小田原市)
瘡蓋や赤とんぼうを糊付けに
ビー玉のかち合ふ路地の鳳仙花
葡萄一房捥いで命の停車場へ
眉剃り落し雪女郎になる途中
龍の落し子脊柱管狭窄症ならむ
齋藤 耐 (大津市)
白南風や車検のシール貼り替えて
メガホンを背負ふ自転車川の夏
ぼけ封じのバス広告やそぞろ寒
遠く聞く電車の音や草の花
ラジオから月光仮面初紅葉
佐藤 久 (横浜市)
花冷のとほく京浜東北線
海にゐて海に入らず蟹の穴
錆色のマスク落ちてをり炎天
蜩やいつかひとりになるふたり
電飾のなき家となり聖誕祭
瀬戸正洋 (神奈川県)
三月や頭の回転が鈍い
デルモンテトマトケチャツプ子供の日
をけら焚く足を挫いてしまひけり
打ち水や折りたたみ椅子をたたむ
夏の日や玄関は暗し広し
竹田みやこ (横浜市)
ビー玉の弾む石段春浅し
風船を萎ませてゐる小さき手
走り梅雨砂利の匂ひの変はりけり
蚊遣香庭の古木に届きけり
百貨店の閉店のベル降誕祭
髙越研次 (横浜市)
丹精の香り添えたる菊人形
コロナ禍の喧騒触れず寒牡丹
老木の伐採跡や春の空
春昼の讃岐うどんにはまりけり
やきもちを猫にあずけて花菖蒲
玉水敬藏 (枚方市)
藍色の暖簾を割って夏料理
小春日の靴と会話の靴磨き
一粒の薄荷ドロップ雪催
今年酒升にふっくり水平線
米粒の粗末を叱る昭和の日
轟木加津美 (市川市)
蝉時雨テニスコートに立ち尽くし
土用入フル回転の換気扇
居酒屋の看板白し大西日
大腸の再検査待つ日向ぼこ
爪切りを幾度も放る兎かな
内藤雅都代 (川崎市)
六尺の仕込大樽夏暖簾
編みかけを開くや烏瓜の花
麹室の低き入口こぼれ萩
過去のことひとまづ措いて葱鮪鍋
湧水に大根の白磨き上ぐ
長濱藤樹 (横浜市)
春暁の糶市の影動きけり
筍飯焚いてひとりのプロ野球
山ひとつ招き入れたり夏座敷
星凉し三途の川の竹箒
立冬の傾いてゐるお父さん
野谷真治 (神奈川県)
両手で笑う幼子の初花火
けんけんぱ星数える二人
古着屋のすとうぶ小銭じゃらじゃら
俎板立てかける余寒
あらほら猫の尻尾の花びら
比留間加代 (横須賀市)
母の忌や高さ五尺の残り雪
今年また夫から手紙春の雪
なで肩の碑は一茶の句草の餅
つまづかず潜る茅の輪や嫁御寮
不揃ひのぐい呑み揃ふ年の暮
藤田裕哉 (横浜市)
白壁の街の音消す寒の雨
赤子だけ笑わぬ写真子供の日
梅雨雲や丘の上まで一戸建
秋風や梁に朽ちたる千社札
畦道のオート三輪山眠る
宮本しおん (千葉県)
菜の花の風のかたちにゆれてゐる
房総をかがやかしたる水仙花
水仙の総立ちとなる雨の音
水仙花咲くも果つる風の中
水仙の道ゆずりあふ顔施かな
安本 純(堺市)
鳥雲に彼方の都市のジェノサイド
下萌えや踵上げ下げ二十回
竹林の風さやさやと初音かな
歩き初め草に尻もち山笑ふ
萩焼の藍の深さや新酒酌む
よしざね弓 (北見市)
幻氷も露西亜の領土かも知れぬ
落下落下吾はまつすぐに落ちてゆく
死なぬただ生きてりゃいいさほらラムネ
金魚死す水上硬く空硬く
鶸色のまま沢蟹の死ににけり
令和2年度(2020年)会員自選作品5句
東 國人 (南房総市)
女子高生うわっと過ぎて花林檎
絵日記の太陽はみだしている極暑
盂蘭盆会鏡の中に父がいる
ゆっくりとめくる新聞今朝の秋
建国日重機の剝がす家の梁
安藤英夫 (京都市)
葉桜や御所のしだれはいかばかり
新緑や医院帰りに六角堂
シャボン玉夢を追いかけ夢破れ
ツツジ咲く廃屋の庭に根づきおり
オォ~友よ笑顔泣き顔風かおる
石渡えみ (横浜市)
姉さんの愚痴聞いてゐる水羊羹
夏蝶や鎌倉に風生まれたる
焼きいもの匂ひ乗り込むエレベーター
鏡台の明治のくもり冬の宿
フランス山へ上る靴音冬銀河
宇賀史子 (横浜市)
秋色のショーウィンドウの女学生
夕焼に染まる飛行機ペダル漕ぐ
熱帯夜壁を眺めて缶ビール
書き初めに三日坊主の文字並ぶ
背を正す友の横顔卒業歌
大塚浩二 (横浜市)
春光や大樹の肌の白き事
早逝の甥の絵を見る盆の月
山門の仁王の眼秋惜しむ
震災の廃墟の錆や鳥帰る
歴史ある寺の本堂冬の雷
大沼遊山 (尼崎市)
磯笛のこだましてゐる神還
大寒の空借りてゐる干物かな
日脚伸ぶ二見ヶ浦の海のこゑ
鷹化して鳩となりたる真珠島
龍天に昇る酒蔵通りかな
尾澤慧璃 (横浜市)
母となる娘と並ぶ初鏡
弓なりに投げるボールや春の富士
夕凪や月にも海のあるといふ
朝霧の立哨葉山御用邸
転んでは起こす自転車冬木の芽
景山田歌思 (さいたま市)
筍を煮たまま帰るかぐや姫
進路指導ただただ騒ぐ油蝉
教誨師鰻を食ってをりにけり
人事異動芋を洗つて待つてゐる
手拭を巻いて露台のジュリエット
北島 篤 (横浜市)
五月闇坂上地蔵のゐなくなり
求婚を受けし娘のクリスマス
江ノ島へぶつかかつたる春の波
風光る根岸の沖の飛行艇
成人の日に盛り上がるリーゼント
久保遡反 (栃木県)
折鶴の鋭角人日の孤独
褐色の大坂なおみ夏きざす
旋盤の屑の虹色終戦日
盆舟の傾いてゐる澱かな
神無月爆音の伊勢崎オート
小島ノブヨシ (小田原市)
戻り橋界隈バレンタインデー
涙したあとに蛞蝓はびこれり
卯の花腐しパンツ穿きかへたくもあり
ぽんぽんだりあ前髪立ちの少年と
むらあやでこもひよこたま業平忌
齋藤 耐 (大津市)
春まけて水筒の白湯飲み難し
貨物列車どごんと停まる戻り梅雨
朧月てふ名の花や夏来る
投げ釣りの鋭き音や照紅葉
舞ひ上がる蝶の白さや秋の果て
佐藤 久 (横浜市)
煙突の太く残れる遅日かな
父在りし頃の大皿粽解く
補助輪を外して帰る麦の秋
穭田や風のまつすぐ吹くあした
橋を吊る鋼線の束冬来る
瀬戸正洋 (神奈川県)
春深し潜水艦から人がぞろぞろ
珈琲たつぷり時間たつぷり四月かな
やはらかな草餅やはらかな地震
穀象や夢は持てるだけ持つべし
にんげんには飛沫枝垂桜には微風
玉水敬藏 (枚方市)
半夏生叩きたくなる尻がある
山小屋のロシア民謡年の暮れ
餡入りの餅に焦げ目や小正月
清明や父の書棚のイプセン集
寒雀故人に届く喪の知らせ
長濱藤樹 (横浜市)
腸のゆたかな夢二山笑ふ
菜の花の黄色が好きで二日酔
カサブランカ同情なんか要らない
花野忌の大きくひらく翼かな
次々と大綿の飛ぶ句碑ひとつ
野谷真治 (神奈川県)
おしゃべりマフラーの風が描く少女
「ガロ編集室」文庫片手の薄霞
月面を歩く孤独探知機
背骨緩め春の一献
星ひとすじ抱いている絵本
比留間加代 (横須賀市)
冬雲を捉ふるジャッキ動かざる
寒の雨脱走犯の猫写真
白酒のかをりふくふく三月来
春雨や明日の米を研いでをり
公園は大きな春となりにけり
藤田裕哉 (横浜市)
レジ袋の溢れる野菜春日傘
風鈴や妻に波長をあわせたる
定年や机の下の捨団扇
蝋燭に浮かぶシテ方秋深し
立冬の氷の爆ぜるウイスキー
安本 純(堺市)
高砂や舞台の袖の鏡餅
制服の金ぴか釦山笑ふ
山里の供華の花束蝸牛
阿波踊笛の音に乗る紅緒下駄
時雨るるや読経聞こえる山の寺
やなぎかほ (いすみ市)
初紅葉美顔クリーム買ひにけり
帰り花らせん階段響かせり
切干を飴色に煮る一葉忌
検診の結果待ちたり花曇
和布干空よりあをき海の色
やまぐち若葉 (堺市)
草紅葉踏みて大原寂光院
イケメンのイクメンパパの黒日傘
向日葵や令和ベビーの大欠伸
寺小春御朱印もらふ長き列
廃盤のレコードを買ふ春の昼
令和元年度(2019年)会員自選作品5句
東 國人(南房総市)
サーファーの太平洋を踏みつける
反対に回す地球儀原爆忌
秋晴れがブルーシートに見えてくる
地球儀に今は亡き国クリスマス
一斉に降車ボタンの光る冬
荒木さくら(堺市)
金毘羅を駆け上りたる春の風
マネキンに着せて泳がぬ水着かな
撫子の聖天坂に咲きにけり
神の旅太陽の塔超え行けり
浮世絵の女となりて冬の雨
安藤英夫(京都市)
ホーホケキョケキョケキョケキョと愛宕山
おぉ~友よsee you again と卒業す
春の暮れ大仏見上げおぉ~凄え
秋の日やどこのどいつがハーモニカ
年賀状一年間のものがたり
大塚浩二(横浜市)
天を衝く直線道路冬茜
小春日や蛇笏の机光さす
棟上げの木組鳴らして春一番
豆飯の香り味はふ夕餉かな
冷酒と蕎麦一枚の馳走かな
大沼遊山(尼崎市)
山水で洗ふ小銭や今朝の春
盆梅てふ影絵の並ぶ襖かな
花雨の万人仰ぐ大晦日
ブロンズの象のはな子とラムネ玉
月明に香る昭和のハイボール
尾澤慧璃(横浜市)
退屈も程良き午後や絵双六
春深し手拭きを染める赤ワイン
オロナミンCの看板大西日
虫の音や太平洋に予報円
一枚の紙の重さや暦果つ
北島 篤(横浜市)
風光る谷戸坂上の測候所
五月闇坂上地蔵のゐなくなり
扇風機ただかきまわす四畳半
逃げ水の彼方セーラー服の人
病み上がりさて一献の燗の酒
久保遡反(栃木県)
母の手を引けば二歳児冬に入る
食パンを春の厚さに切つてゐる
牡丹を支ふる茎の細さかな
消しゴムの寿命はあした赤い羽根
除夜の鐘リセットボタンはここです
小島ノブヨシ (小田原市)
蟇臍を曲げるありもせぬくせに
てんたうむしだまし冗談かとおもふ
写楽顔してをり猫がのびをして
ラムネ抜く少年銃刀法違反にて
麦わら帽子くぼめて銃を抜くしぐさ
齋藤 耐(大津市)
縄文の磐座拝む二日かな
寝る子負ひ山車引く人や夜の風
冴え返る日本列島茶漬飯
曇天のソーラーパネル年の春
窓を打つ夜明の雨や冬の春
佐藤 久(横浜市)
陽春や馬上に弾む女騎手
白南風やまん丸つるりガスタンク
初秋の風つかみたる赤子かな
鳥渡るひとりで卵かけご飯
廃業の湯屋の貼紙クリスマス
瀬戸正洋(神奈川県)
目の裏が痒い焼酎緑茶割
除草剤散布長靴に裂け目かな
背高泡立草臆病者は顔を洗ふ
野遊びやペプシコーラとコカコーラ
Bach「コーヒーカンタータ」桜かな
玉水敬藏(枚方市)
秋立てば穂高の風に会いに行く
秋来る穂高山岳資料館
うつうつと月の穂先の膝痛し
三日月や明日は北穂の小屋泊まり
新小豆穂高の神に供えたる
轟木加津美(市川市)
半襟を縫う指先の初日影
寒波くる待合室の指相撲
筆箱の旧姓を消す初嵐
校庭にブランコ残し卒業す
風鈴や書斎に残る万華鏡
長濱藤樹(横浜市)
カラフルな紙のごみ箱鳥曇
美術館の長き鉄柵青葉風
夜の秋金一円の詩集かな
半島の日をたつぷりと大根畑
初雀一茶の句碑へ糞ひとつ
新倉久男(横浜市)
花の世を通勤電車黙・黙・ト
上下から羽根を打たれど時化を飛ぶ
秋高しパソコンたたくだけの部屋
喪服らの井戸端会議無月かな
救急車、加齢の耳はダンボかな
兵野むつみ(横浜市)
読初の睡魔しきりに「夢十夜」
冬帽子真深かに老は一様に
余寒なほ子規終焉の部屋に来て
散り敷きて椿五色の浄土かな
夕桜そろそろ魔物棲みさうな
比留間加代(横須賀市)
下がり目の虚子の似顔絵あたたかし
海神の穏やかなる日薔薇崩る
日焼け子の皮膚ほろほろと剝れをり
全身ではにかむ晴れ着七五三
山肌の崩るるままに冬ざるる
吹野紀子(鳥取県)
蚕豆の綿やわらかし嘘ひとつ
蕎麦打の弾みし音や山笑う
空蝉や神魂神社の男坂
イザナミの化身となりし揚羽蝶
遠雷や遠くの友を思いけり
福本敬子(米子市)
打吹山の天辺にある糸桜
見下ろせば巨大古墳や梅雨晴間
手水舎の長き行列山開き
美保湾を一望にせり山躑躅
辨天の五十鈴の音色半夏生
藤田裕哉(横浜市)
ランドセルの鈴音聞こゆ桜東風
運転手の視線ぶつけ合う炎天
白壁にへのへのもへじ秋暑し
黄落やゆっくり溶ける角砂糖
饅頭に寺の刻印小鳥来る
藤盛愉皐(西宮市)
青白き尼僧のうなじ春清し
汗にじむシャツや乳房のはつらつと
家族みな大声揃い蓮の飯
毛糸編む片袖残し恋終わる
春待つや薄く紅ひく通院日
安本 純(堺市)
道頓堀の太鼓連打や初芝居
囀や木陰に空の車椅子
断捨離のふんぎりつかず登山靴
蛸壺の転がってゐる浜の秋
田終ひや淡き煙の遠近に
やなぎあやか(いすみ市)
七月のはじめポットを洗ひをり
バナナ分け話せる人のをりにけり
インディアカシャトル飛び込む夏の雲
つゆ草やこころづくしの雫あり
こんこんと水面を照らす竹の春
やまぐち若葉(堺市)
鋭角に割れ如月のチョコレート
両陛下の最後の伊勢路新樹晴
豊の秋おやじバンドの音合はせ
さよならを云つてまだゐる盆の月
夏隣少女の白き膝小僧